わたし好みの新刊―     201112

 『飛べ!「はやぶさ」』       松浦晋也・文    学研教育出版

 2011613日,多くの科学者の夢をのせてあしかけ7年の旅をして「はやぶさ」
が地球にもどってきた。「はやぶさ」本体は地球の大気で燃え尽きてしまったが,中
に埋められたカプセルが無事回収され,新たな宇宙の謎解きが始まっている。
「はやぶさ」については報道でも大きく取り上げられたので,その感動がまだ胸にう
ずまいている人も多いことだろう。

 その感動を再び本でいかがだろうか。もちろん「はやぶさ」に関する本はたくさん
出ている。カラー写真やイラストをたくさん載せ,小惑星「いとかわ」探査ミッション
の一部始終がくわしく書かれた本もある。しかし,〈科学読み物〉として子どもたち
も楽しく読める本にはお目にかかっていなかった。今回取り上げた,この『飛べ!
「はやぶさ」』は,子どもたちにも分かりやすくて,ミッションにかかわった人たち
の感動も良く伝わってくる。

 伝記物やノンフィクション読み物で大切なことは,まず,さっと見て読みやすいこと
である。この本は,最初からすっと読み進めることが出来る。そのほか〈科学読み物〉
として大切なことは,書かれている科学的な事象がよくわかるように配慮されている
ことだ。この本では,そうした配慮が各所でなされている。例えば「ドップラーシフト」
という言葉が出てくると,一通りの言葉の解説の後に,「救急車が走ってくるのを見
たことがありますよね。…」と,日常経験する事象と対比されて説明されていく。難
解な「イオンエンジン」,「地球スイングバイ」等についての説明もよくわかる。

そのほか,そこここに「さあ,どうしたらいいでしょうか」と,読者にも問いかけ
ている。

 知られているように,「はやぶさ」は,予期せぬ事態に何回も悩まされながらの飛
行だった。その時その時の研究者たちのハラハラドキドキ感も読者によく伝わってくる。

すでに,次の宇宙探査の計画もすすめられているとか。子どもたちにも夢を与える本
である。
                                               20114月刊  1,200


『オガサワラオオコウモリ 森をつくる』
                 
有川美紀子,鈴木創文写真 小峰書店    
 「コウモリが森をつくる」? オオコウモリ類は木の葉や花を食べるが,どういうから
くりで森づくりに貢献しているのだろうか。まずは,オガサワラオオコウモリについての
話から始まる。

 「がけの下からの海風が、ライオンのしっぽににた葉っぱをあおってゆらしています。
 そのふしぎな形の木の名前は、タコノキといいます」

 そのタコノキの頭の上にオガサワラオオコウモリがキャキャキャキャと鳴きながら集ま
ってくる。ど
うやら,ここの森づくりにこのオガサワラオオコウモリが関係しているようだ。
 小笠原諸島と言えば東京都とはいうものの,日本のはるか南海の孤島である。小笠
原の成り立ち
や固有種が生き残っている経過がさし絵入りで紹介されていく。その小笠
原諸島でも,近年オオコウ
モリが減少して生息場所が限られているという。
 オガサワラオオコウモリについての生態もかなり研究されているようだ。その一つ一つ
が紹介さ
れていく。夕方,食べものをさがしに寝ぐらを飛び出したオオコウモリの行く先
は樹木の上だ。むし
ゃむしゃとおいしそうに木の葉を食べている。まるで大型の哺乳動
物なみだ。体の仕組みは普通の
小型コウモリと大きくは変わらないがなんといっても目
が大きい。オオコウモリは超音波を使わない
ので,目と鼻で食べもののありかを探す。
 さて,そのオオコウモリの食べものは…ビロウやガジュマル,ボダイジュといった植物
の葉っぱの
ほか,タコノキ,ガジュマル,ヒメツバキなどの実とある。タコノキの実に
かぶりついているオオコ
ウモリの写真がある。けっきょく,果実の部分だけ食べるので
種は捨てられていく。これが,森の種
子散布に貢献しているのだ。
 20116月に小笠原諸島は世界自然遺産に登録された。共生を求めて自然をより大
切にして生き
ていこうという運動も紹介されている。        
                    
      201110月刊   1,400(西村寿雄)


                          

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